関東平野を南下しながら流れる一級河川・鬼怒川が、市のほぼ中央を縦断する常総市。茨城県の中にあっては、埼玉県、千葉県に近い、南西に位置します。その鬼怒川の水運で栄えた中核都市のなごりが随所に残る同市の旧石下町に、今回訪問した山中酒造店があります。淡麗辛口ファンの間では、知らぬ人のいない茨城の名酒「一人娘」の蔵元です。創業1805年は表向き。実は「もっと前からやっていたらしい」と話すのは9代目当主の山中直昭さん。お寺の過去帳などをたどると1650年ごろには先祖の痕跡があるとか。1944年には全国新酒函鑑評会で第1位になるなど、高い評価を受けながら、「一人娘」を守り、育ててきた同社の酒造りについて聞きました。

 

一人娘ができるまで!

鬼怒川の水を利用

酒造りには、質、量ともに恵まれた水の存在は欠かせません。山中酒造店の場合は蔵の裏手に流れる鬼怒川の水を利用して酒造りをスタートさせました。ミネラルが豊富な硬水であれば、発酵は速やかに進み酒造りには好都合ですが、鬼怒川の水は軟水。進みにくい発酵を逆手に取り、「きれいな酒」造りを目指したのです。

「さわりなく真水のごとき」

このような事情を背景に、県内の淡麗辛口の代表格「一人娘」は誕生しました。直昭さんの父、8代目の直次郎さんの言葉によれば「さわりなく真水のごとき酒質」を目標に工夫を重ねた成果です。重要なのは、蒸米を溶かし過ぎないこと。そのためには、水の温度に注意しながら慎重に浸漬時間を決め、硬めに蒸し上げます。「外硬内軟」が理想です。

細心の注意を払い

現在米は、茨城県産ひたち錦、他県産米、兵庫県産山田錦、長野県産美山錦を使っています。発酵タンクの中で蒸米が溶すぎると、「味が多い酒」になり、一人娘にはなりません。米の状態も、漬け込み、蒸し上げる時の温度も毎回変わります。一つひとつの作業に細心の注意を払って初めて、目指す酒が完成するというわけです。

 

洗米機で米を洗います。米を傷つけないよう水の渦の力で静かに汚れを取り去ります。

浸漬後蒸気で蒸します。蒸米が溶け過ぎると雑味になるので、蒸す時間も慎重に決めます。

放冷機を使い、蒸した米を速やかに冷まします。その先のブロアに落とし込みます。

エアーシューターを使い、直径13cmほどのホースでタンクまで運び仕込みます。

もろみをカイボウで混ぜます。写真は本醸造の18日目のもろみです。大分発酵が進んでいます。

「ふね」と呼ばれる絞る装置です。この装置の担当は「せんどう」と呼ばれます。

 

ここが匠の技!

山中酒造店では、平成14年から社員による酒造りをスタートさせました。杜氏の高齢化など諸事情の中で、茨城県全体も外部の杜氏による酒造りが変化してきたことの一環でした。それまでの経験を生かして、自分たちで酒造りを進める蔵元が増えてきたのです。山中酒造店も直昭さんを先頭に、杜氏の勘や独自の技術で進めてきた酒造りを、できる限り数値に置き換え、自分たちの酒造りの確立を目指しています。米には何%水を吸わせるかの判断や、麹を作るときは温度など、その都度細かく厳密に計測し、蔵の隅に用意したコンピューターも使って記録、判断の基準を作る作業も同時に進めています。求める酒は「出しゃばらない」「食事の邪魔をせず、むしろ食事を引き立てる」酒です。

家業を継ぐことを考え、東京農業大学の農学部に入学し醸造の勉強をした直昭さん。社員による酒造りは、杜氏の時間に縛られない分、一気に作る必要がなくなり、生酒など「出来立てを味わってもらう機会が増えたことがうれしい」と話しています。

 

清酒「一人娘」醸造元 山中酒造店 アラカルト

左から純米超辛口一人娘720mlと1.8ml。超辛口とうたっているものの、嫌味な辛さを感じさせない柔らかな口当たりが特徴です。燗にしても美味しいと評判です。一人娘純米大吟醸は、最高級の大吟醸です。箱も容器も美しく、贈答用としても喜ばれています。一人娘本醸造。日本画から抜け出てきたような美人画も、同社のブランドイメージとして定着、一人娘の定番です。

Information

清酒「一人娘」醸造元 山中酒造店
住所 茨城県常総市新石下187
営業時間 8:00〜19:00
定休日 元旦のみ
お問い合わせ TEL:0297-42−2004
山中酒造店